岡崎昭夫

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更新日 2017-09-24 | 作成日 2008-05-26

第4回鑑賞教育フォーラム

アメリカの美術教科書と鑑賞教育
 -美術作品に基づく制作-

岡崎昭夫

(筑波大学)

1.美術教育内容の拡大

アメリカの美術教育の分野において、美術内容の領域を単に制作学習のみに限定せず、美術批評や鑑賞あるいは文化史的な領域をも含めた広い視野から美術内容を生徒に学習させようとする動向は1960年代の後期から起こり、1970年代を通して実践化されていった。美術のカリキュラムの諸事例は、実際に開発され現場で試行されて、1970年代中期から1980年代中期にかけて民間の出版社から発売された。
 アメリカにおいて、こうした美術のカリキュラムの開発が継続的に行われざるをえないのは、日本とは異なる教育制度上の理由があるからである。もともと、教育制度上の全国的な統制がないアメリカにおいては、美術教育のガイドラインは各州の教育局において作成され、具体的な美術教育の指導計画の立案は各学校区(School District: 全米で約16,000)の責任に属する。それゆえ、各学校区の必要性に応じて、継続的に次々と美術教育のカリキュラム開発がなされなければならない背景があると言えよう。
 それらの開発活動が文献として全米に行き渡り、また、それらの開発に参加した人々が自らの開発の経験を生かして美術教育の教科書や指導書の編纂に従事したのが1980年代であった。美術教育におけるカリキュラムの研究は美術教育の研究領域の一つとして成立し、カリキュラム開発とその普及は、少数の研究者による実験的開発の段階を超えて、カリキュラム領域を専門とする人々によって推進される時期に至ったのである。
制作中心から美術教育内容の広がりを求めるカリキュラム開発の動向は、1970年代中期から1980年代中期にかけての美術分野のみの単独の教科カリキュラムの開発プロジェクトに引き継がれたが、開発後のカリキュラムの普及という問題が残された。中央集権的な教育制度の存在を許さないアメリカにおいては、美術教育の内容に広がりをもたせた教科カリキュラムを開発し、かつ教室担任の教師にも指導性を確保して使い易い教材を編成し、それをどのような形式で現場に配布するのか、という現実的な諸問題を解決する方法として採用されたのが、伝統的な印刷教材のみによる教科書方式(教師用指導書と生徒用教科書の出版)と、スライドのメディアを装備した指導書方式(教師用指導書のみ)であった。
こうした方式によって美術教育の枠内でカリキュラム開発を行う事例は、1970年代中期から1980年代中期にかけて、見出される。以下では、美術内容の広がりをねらうカリキュラム開発の成果として、その当時アメリカで商業的に販売されていた代表的な4種類を取り上げて、簡単に紹介してみたい。それらは、教科書方式としての『美術—意味と方法と媒体—』と『美術の発見』、指導書方式としての『SWRL初等美術プログラム』と『クリア:創造的初等美術学習教材』である。

2.『美術—意味と方法と媒体—』

 まず、前者の教科書方式の事例は二つある。その内の一つは、インディアナ大学のハバード(Guy Hubbard)とローズ(Mary Rouse)によって作成された教科書、『美術—意味と方法と媒体—』(Art: Meaning, Method, and Media)である(注1)。
 この教科書の販売会社は、カリフォルニア州、サンジエゴ市にあるベニフィク社(Benefic, Inc.)であり、この初版は1972年に出された生徒用の教科書をもとにしており、その後1978年に、教師用の指導書が作成されて加えられた。1981年にはその改訂版が出された。このカリキュラムは、伝統的な教科書形式で、生徒用の教科書と教師用の指導書の二種類に分かれ、それぞれは小学校の各学年に1冊ずつ計6冊が用意されている。価格は、生徒用が一冊あたり8.5ドル、教師用が1冊あたり9.75ドルであり、教科書や指導書を一つの学校が購入してそれらを教師や生徒に貸与することを考慮した適切な値段となっている。
 六冊からなるこのカリキュラムは、小学校の第1学年に相当する「第1レベル」から第6学年に相当する第「6レベル」までの生徒を対象にしており、それぞれの学年の終了時において「学習したことを実行できる」ように、また、第6学年の終了時に「美術専門の教師のもとで学習し始めることができる」ように、美術の表現と鑑賞の基礎的内容を網羅している。そして、教師用の指導書により美術の専門的訓練のない教室担任教師が美術学習を指導できるように編成されている。各々のレベルの生徒用教科書と教師用指導書は、共に、本文が128頁あり、後者の指導書には該当のレベルの総説が約20頁、本文の前に加えられている。
 このカリキュラムでは、望ましい美術学習の課題がAからFまで六つの「課題カテゴリー」で示されている。それらは、A「知覚学習」(五感)、B「美術言語の学習」(造形要素や造形原理)、C「美術家に関する学習」(美術家の人間像)、D「美術の批評と判断」(美的判断形成のための基準や観点)、E「美術の材料用具の使用の学習」(材料用具の技能と知識)、及び、F「制作能力の形成」(表現方式や技法)である。このようなカテゴリーは、ABCが「感じ、知り、理解する」ことに、Dが「価値付け、判断すること」に、そしてEFが「制作すること」に、それぞれ関係している、という図式となる。
 次に、それぞれのレベルはすべて、60の学課(Lesson)で編成され、総計で360の学課でこのカリキュラムは構造化されている。例えば、レベル1における学課の題目は、1.「なにができるかを示す」、 2.「クレヨンで自画像を描く」、 3.「クレヨンで壁画をつくる」、 4.「意味ある線を引く」、 5. 「音楽的な線を引く」、6.「感覚的な線を引く」、 7.「色彩の探究」、 8.「色彩の変化」、 9.「混色の絵の具で」、 10. 「寒色と暖色の絵の具で」、11.「描いた絵について話し合う」、12.「色彩の役割について話し合う」などである。そして、これらの学課のそれぞれに、前述の六つの「課題カテゴリー」の中で、二つから四つが美術内容として割り振られている。すべての学課の授業時間は40分に統一されており、また、一週二つの学課をこなしてゆくことで、一年間の美術学習が展開できるようになっている。
 生徒用の教科書における各学課の書式は、(1)学課の題目、(2)材料用具のリスト、(3)学習を内容の説明、(4)参考作品や美術作品の図版や制作方法を示す図解、(5)内容領域のリスト(課題カテゴリーの分類にそった)、の順に編成されている。教師用指導書における各学課の解説は、(1)学課の題目、(2)授業時間(40分)、(3)材料用具のリスト、(4)指導方式(学習の展開が項目化され、それぞれの項目で指導内容と配当時間とが記述され、実際の制作時間は20分に統一されている)、(5)目標にそった評価項目のリスト、の順に記述されている。
 この教科書は、1987年にハバードにより全面改訂され、『美術の活動』(Art in Action)という新しいタイトルでコロナド社(Coronado)から刊行されたが(注2)、現在では絶版のようである。

3.『美術の発見』

 さて、教科書方式の事例の二つ目は、チャプマン(L. H. Chapman)が編成した教科書、『美術の発見』(Discover Art)である。チャプマンは、1960年代中期にはオハイオ州立大学の助教授を勤め、1970年代前期にはシンシナチ大学で教えて、大学生用の美術教育のテキスト『教育における美術へのアプローチ』(注3)を公刊した。1970年代後期には教科書編成に専念することになり、1981年には『美術の授業』(注4)というバインダー形式の二冊組の指導書を作成し出版した。これを基にして、生徒用と教科書と教師用指導書が一組となった『美術の発見』を1985年にデイビス社(Davis Publication)から刊行したのである(注5)。
 このカリキュラムは、教師用と生徒用ともに、前述の『美術—意味と方法と媒体—』と同じように、伝統的な教科書方式を採用し、小学校の第1学年に相当する第1レベルから第6学年に相当する第6レベルの6分冊で編成されている。生徒用は各1冊が13.25ドル、教師用は各一冊が14.95ドルの価格であり、教科書や指導書を一つの学校が購入してそれらを教師や生徒に貸与することを考慮した適切な値段となっている。各レベルの生徒用教科書と教師用指導書はともに本文が127頁であり、教師用指導書の本文の前には該当のレベルの総説が約15頁にわたり加えられている。美術経験の少ない小学校の教室担任教師でも扱い易いように、美術分野の基礎的な学習内容が一年間で順次的に配列され、また各学年間で系統的に積み上げられている。
 このカリキュラムには三つの美術内容の領域が設定されている。その第一は「美術制作」であり、その学習内容とは、(a)自然、環境の建造物、想像力、装飾などの理解、(b)視覚的思考、創造的問題解決、造形要素、造形原理、(c)様々の材料用具や方法の選択、制御、試行、(d)美術の個人的な意味、という四つの観点から平面作品や立体作品を制作することである。次に、第二の領域は「美術の鑑賞」であり、その学習内容は、(a)美術作品(自他の作品、大人の作品、環境にある造形物)を知覚し、記述して、(b)美術作品を解釈し判定すること、である。最後に、第三の領域は「美術と生活」であり、その学習内容は、(a)自然や人工の世界における美しい形態を知覚し鑑賞し、(b)美術に親しむ機会を求め、(c)人々が生活をより豊かにするために生み出してきた様々の美術的形態を鑑賞し、日常生活における美術の役割を理解することである。
 次に、それぞれのレベルはすべて60学課で編成されており、総計360学課でこのカリキュラムが編成されている。例えば、レベル1における学課の題目として、1.「素描:周りの世界」、2.「素描:線の多様性」、3.「素描:線は動きを表す」、4.「素描:線で形をつくる」、5.「コラージュ:切って糊づける」、6.「想像力を駆使して」、7.「色環:色の仲間」、8.「色の仲間:色の寒暖」、 9.「彩色:筆で」、 10.「彩色:混色で」、 11. 「彩色:明暗で」、12.「お面:お面の形」、13. 「お面:お面をつくる」、14.「美術の探究:肖像画」、 15「.美術家のように:自分たちも」、などである。これらの各々の学課には、上記の三つの領域から二つあるいは三つすべてから、それぞれの領域にそった授業目標が示されている。
 生徒用の教科書における学課は、視覚図版、制作方法の図解、文章説明からなり、教師用の指導書におけるそれは、(1)準備、(2)目標、(3)探求、(4)活動、(5)発展、(6)かたづけ、(7)評価、の各項目にそって解説されている。各項目に要する授業の配当時間が明示されており、特に、(4)活動の時間は20分に統一されている。学課の授業時間は、レベル1から3までが35-40分で、レベル4から6までが45-55分である。一週当たり二つの学課をこなしてゆくことで、それぞれのレベルの教科書は一年間をカバーしている。
 特徴的なことは、第5学年ではアメリカの美術史が、第6学年では世界美術史が系統的に学習できるようになっていること、さらに、全学年を通して約1,800にも及ぶ図版が掲載されていることである。これらの図版の大半は大人の美術作品で構成され、児童の作品はごくわずかである。
 この教科書は1994年に全面改訂されて『美術の冒険』(Adventures in Art)という新しいタイトルで販売された(注6)。これは2008年に再び改訂されて『美術の探究』(Explorations in Art)というタイトルで販売が開始されたところであり、これが現在ではアメリカで最も新しい美術の教科書である(注7)。

4.『SWRL初等美術プログラム』

 生徒用教科書を作成せずに、スライドのメディアを装備した教師用の手引きのみの指導書方式の事例が『SWRL初等美術プログラム』である。これは、ロサンゼルス市にある南西部地区教育研究開発実験所(Southwestern Regional Laboratory for Educational Research and Development: SWRL)によるカリキュラム開発の成果である。この開発の中心的な役割をはたしたのはグレア(W. Dwaine Greer)であり、アリゾナ大学に在職中の1984年にDBAE(Discipline-based art education)運動を起こした人物としても知られている(注8)。
 1977年にインディアナ州ブルーミントン市のフィ・デルタ・カッパ・センター(Phi Delta Kappa Center)から出版されたこのカリキュラムは、学年レベルを意味するブロック(Block)1から8までで編成されている(注9)。このカリキュラムの書式は、装丁した図書としてではなく、カリキュラムの解説書や授業単元の指導案などの印刷教材をルーズリーフ状にしてバインダーで綴じ、12本のスライドフィルムを装備したものである。1ブロックごとに一冊のバインダーで計8巻からなり、それらの1巻の価格は75ドルで、8巻の総計は600ドルである。この価格は、一つの学校が購入するには、教科書方式による一冊の価格と比べて高価であるが、学校全体で共用するにはさして問題のない値段と思われる。
 このカリキュラムは、当初は第14ブロックまで開発が計画されて、幼稚園から小学校の第6学年まで、各学年に二ブロックが配当される予定であったが、実際に開発されたのは8ブロックまでに止まった。従って基本的には、このカリキュラムに該当する学年は、幼稚園と小学校の第3学年となるが、各ブロックを小学校から中学校の2年までの第8学年に配当して柔軟に用いてもよく、さらには現職教育用にも利用してもよいことが、解説文に示されている。
 このカリキュラムの目的は、美術の諸概念に関するしっかりとした基盤を生徒たちに与え、美術の探究を生徒各々に促すことにある。そのために設定された美術の学習は、以下の三つである。第一の学習は「視覚分析」であり、これを通して生徒たちは周りの世界を題材にして観察し、その結果を解釈できるようになる。第二の学習は「制作」であり、これを通して生徒たちは観察や解釈の結果を作品に表す。さらに、第三の学習は「批評分析」であり、これを通して生徒たちは素材や様式や文化的関連などから美術作品を批評し分析できるようになる。
 それぞれのブロックは四単元(Unit)からなり、さらに、各単元は四つの活動(Activity)から編成されているので、このカリキュラムは総計32単元、128の活動で構成されていることになる。これら総計32単元には主題が付けられておらず、(1)視覚分析の「題材」(人物、動物、器物、植物と風景、の4種類のうちで一つ)、(2)制作「方式」(素描、彩色画、平面デザイン、立体構成、の4種類のうちで一つ)、(3)批評分析のための「様式」(再現的、想像的、装飾的、非具象的、の4種類のうちで一つ)、という三つの観点を提示して。題目に代えている。例えば、ブロック1における四単元は、単元1「人物—素描—再現的」、単元2「動物—彩色画—装飾的」、単元3「器物—平面デザイン—再現的」、単元4「植物と風景—立体構成—装飾的」、のように記されている。
 さらに、各々の単元は四つの活動で編成され、それぞれの活動もまた三つの学習のステップをとっている。例えば、ブロック7の単元2「植物と風景—彩色画—創造的」の活動1では、(1)題材を理解するための視覚分析の学習をスライドを通して行い、(2)スライドで制作過程を見せて「灼熱の光線」という題でコンテを使って太陽と山並みを描く制作学習をして、(3)スライドの様々な美術作品を通して批評分析の学習をする学習、というように設定されている。さらに、活動2での3段階の学習のステップを取り上げてみると、(1)山並みの空間の相互関係と物理的特性をスライドを通して視覚分析をして、(2)「大きな山の峰々」という題で山脈の重なりを描き、(3)さまざまの作品のスライドを通して作品分析と作品の文化的背景を学習する。こうした活動1と活動2の制作は、活動3における「乾燥した植物」という題で砂漠のサボテンを描くことにつながり、最後の活動4における「焦土風景」という題で創造的な絵画を描くことで終わるのである。
 単元におけるすべての活動に必要な三つの美術の学習それぞれにスライドが準備されている。これらは、各単元にロール状のものが3本(視覚分析、制作、批評分析)用意されている。1ブロック当たり12本で総計96本のポジフィルムのなかに納められているスライドのコマ数は約3000にのぼる。
 各々のブロックのバインダーの内容は、教師用の指導書としてのみ使用されるようになっており、生徒用としてはスライドが教科書の印刷教材の代わりの役目をはたしている。こうしたことによってこのカリキュラムのコストが低く抑えることができ、学校現場への普及を容易にしているのである。各巻のバインダーの内容構成は、(1)スライドフィルム12本、(2)視覚分析学習と制作学習の授業用指導書、(3)批評分析学習の授業用指導書、の3種類である。

5.『クリア:創造的初等美術学習教材』

 スライドと教師用の手引きのみの指導書方式の第二の事例としては、『クリア:創造的初等美術学習教材』(Clear: Creative Learning Elementary Art Resources:)が挙げられる(注10)。これは、幼稚園(Grade K)に始まり、小学校の第1学年(Grade 1)をへて、中学校の第2学年に相当する第8学年(Grade 8)までの9学年分をカバーするカリキュラムであり、アレクサンダー(Kay Alexander)による監修で開発された。この販売を担当したのはコロラド州アスペン市にある『クリスタル・プロダクションズ』であり、1987年にロール状のポジフィルム・音声カセット(あるいはビデオカセット)と教師用指導書(約200頁)のセットで発売された。1993年のこの会社の販売カタログによると、このカリキュラムの価格は350ドルであった。
 このカリキュラムの美術教育の内容は伝統的な美術のジャンル分けに従って六つの領域で構成されている。それらは、描画(Drawing)、絵画(Painting)、工作(Cutting, Tearing, Folding, and Fastening)、織りとデザイン(Fiber and Designing)、彫塑と立体構成(Modeling and Constructing)、版画(Printing)の各領域である。これらの各領域で幼稚園から第8学まで一つから二つの題材が設定され、題材の学習においては最初に大人の美術作品が鑑賞される。それにより生徒たちは、紹介される名作の「コンセプト」と教えられる表現「スキル」との関係から、美術史を知り、美的感受性や美的鑑賞力を高めて、それ以後の制作活動に進んでゆく指導方法が設定されている。
 例えば「描画」領域では、「頭文字のパターン化」(Grades K-1)、「輪になった供のダンス」(Grades K-1)、「円筒の凧」(Grades 1-2)、「劇場のジオラマ」(Grades 1-3)、「地塗りの上に線描」(Grades 1-3)、「輪による人物クロッキー」(Grades 1-3)、「食べられた同士を描く」(Grades 2-3)、「なぐりがきから形を見つける」(Grades 2-3)、「輪郭線描による自画像」(Grades 4-6)、「見取り枠からクローズアップした静物画」(Grades 4-6)、「ハッチングとクロスハッチングによる明度」(Grades 4-6)、「画面を見ないで輪郭を描く」(Grades 4-6)、「シュールレアリズムのような場面」(Grades 5-7)、「コラージュへの描画」(Grades 6-8)、「針金で描画する」(Grades 6-8)、「1点と2点の透視図法」(Grades 7-8)のような16の題材が設定されている。
 この「描画」領域における各題材の授業で最初に提示されるのは大人の美術作品1点であるが、それらの作家たちは、ドガ(Degas)、デグラシア(DeGrazia)、広重(Hiroshige)、グルームス(Grooms)、ホーマー(Homer)、テリチュー(Tchelitchew)、ピカソ(Picasso)、セザンヌ(Cezanne)、ギブソン(Gibson)、オルデンバーグ(Oldenburg)、バーデン(Bearden)、カルダー(Calder)、パーニーニ(Pannini)などである。
具体的には「円筒の凧」(Grades 1-2)の題材では、北斎の『水道橋駿河台』の版画が生徒たちに提示され、子供の日に鯉の凧が屋外にたなびかせる文化的風習が説明される。その後に、円筒にする凧の胴体に模様を描き、ひもで屋外につり下げるという制作をする。紹介される名作の「コンセプト」とは「装飾的なデザインやパターンは、線の模様を組み合わせすることによって、作られる」ことであり、教えられる表現「スキル」とは「基本的な模様を用いて紙製の装飾を作る」ことである。つまり題材のコンセプトは認知目標を意味し、スキルは技能目標を意味する。この授業展開はスライドと音声テープ(あるいはビデオテープ)によって以下のような音声(ナレーション)の順序で進められる。

・スライド1(左画面:安藤広重の版画 右画面:日本の子どもの日の鯉のぼり)では、「右は、日本のこどもの日の凧です。その休日は今では子どもの日と呼ばれているのですが、その日は、鯉と言われる一匹の魚に似た紙製の凧で、子どもの家の庭先につるされて、祝われます。左の版画は、日本の美術家安藤広重によるものですが、日本の魚の凧で、約200年前のものを表示しています。その二つの凧を比較しなさい。それらはどこが同じで、どこが違っていますか。」
・スライド2(パターンを描く子どもたち)では、「あなたが学習しはじめるのは、円筒形の凧の製作方法で、その凧は、装飾のために使われますが、最初に、描画のパターンを黒板に練習することによってです。直線のパターンとともに曲線でも描きなさい。いくつかの線を結合して、ジグザグ、波、円、S字にしてみなさい。いくつかの点をあなたのパターンの中に打ってみなさい。」 
・スライド3(紙にパターンを描いている)では、「パターンを、一枚の紙に描いて、自分の凧の参考に使います。覚えておくのは、パターンが連続的な反復形態(反復された形の連続)であることです。」
・スライド4(線を色画用紙に描く子ども)では、「直線的な白いチョークの線を、数インチ、あるいは、おおよそ4本の指くらい離して、大きな色画用紙に、描きなさい。」
・スライド5(パターンに彩色する)では、「覚えておくのは、あなたは自分のパターンを平らな一枚の紙に描かなければいけないことですが、たとえ自分の紙を円筒に巻くとしても、なのです。では、あなたのパターンを、線の合間に描き、それらを油性パステルかクレヨンで、彩色しなさい。」
・スライド6(パターンに彩色する)では、「画用紙の上部の二つの大きな点で、魚の両目を表すことができるでしょう。自分のパターンを、最後の白いチョークの線に達するまで、描き、最後のスペースを空白にして残しておきます。」
・スライド7(画用紙の底部をリボン状に切る)では、「あなたは、画用紙の最後の段を房飾りに切って、風にはためくようにするでしょう。切断を約1インチ幅で(離して)、画用紙の底部をすべて横断し、最後のチョークの線まで、切ります。」
・スライド8(左画面:紙を円筒に巻く 右画面:紙の端を糊付ける)では、「穴を二つ、円筒の両端に、右の写真で分かるように、空けなさい。紐か糸が、穴を通して、結ばれると、凧は展示のため吊すことができます。」
・スライド9(左画面:凧を持っている子どもたち 右画面:風に吹かれる凧)では、「これらの写真があなたに示しているのは、二つの凧で、子どもが教室でつくったものです。注目するところは、装飾的なデザインやパターンで、それは反復された線の模様でつくられています。」

 このカリキュラムの各領域では平均15題材が設定され、各題材で1枚の名作が鑑賞されるので、総計約90題材と90の名作によってこのカリキュラムが成立している。各題材の教材は、名作や制作過程を示す約10枚のスライドとそれらの解説音声2~3分であり、このカリキュラムでは総計約900枚のスライド画像と約4時間の音声カセット(あるいは画像に音声をつけたビデオカセット)が提供されている。教師用指導書には、冒頭に「用語説明」「領域説明」「題材配列表」があり、題材ごとに「コンセプト」、「スキル」、「名作」、「用具」、「指導方法」、「ナレーション」の順で記述されている。巻末には「作家の略歴」や「参考文献」がある。
 このカリキュラムを基礎にしてアレクサンダーは、より包括的な内容で第1学年から第8学年まで、学年ごとに一冊のバインダー(マウントスライド80枚と30学課の記述)にしたカリキュラム『スペクトラ』を作成して、それを1988年に出版している(注11)。

6.美術カリキュラムの共通性

 ここでは、制作中心から脱して美術教育内容の広がりを求めるカリキュラム開発の基本的指向が、1970年代中期から1980年代中期にかけての美術分野のみの単独の教科カリキュラムの開発に引き継がれたことを示した。美術教育の内容に広がりをもたせた教科カリキュラムを開発し、それを全米的に普及させる方法として採用されたのが、伝統的な印刷教材のみによる教科書方式と、スライドのメディアを装備した指導書方式であった。
 これらの二つの方式は、カリキュラムの開発とその普及に関する現実的な最上の解決策と見なされてよいものと思われる。前者の教科書方式の事例として、ハバードとローズによって作成された教科書、『美術—意味と方法と媒体—』と『美術の発見』を、また、後者の指導書方式の事例として、生徒用教科書を作成せずにスライドのメディアを装備した教師用の指導書、『SWRL初等美術プログラム』と『クリア:創造的初等美術学習教材』を、それぞれ取り上げたが、これら四つの事例に共通して認められる傾向がいくつか見出せる。
 これら四つの事例は、それぞれ独自の観点から美術内容の領域化をはかっているが、いずれも制作中心の美術教育のカリキュラムから脱皮して、美術内容の広がりを求めているという点では同じであると考えられる。例えば、『美術—意味と方法と媒体—』では、A「知覚学習」(五感)、B「美術言語の学習」(造形要素や造形原理)、C「美術家に関する学習」(美術家の人間像)、D「美術の批評と判断」(美的判断形成のための基準や観点)、E「美術の材料用具の使用の学習」(材料用具の技能と知識)、及び、F「制作能力の形成」(表現方式や技法)、という望ましい美術学習の「課題カテゴリー」が提示された。これらの課題の範疇では、EFが「制作すること」に関係するのみで、他のABCが「感じ、知り、理解する」ことに、Dが「価値付け、判断すること」にそれぞれ関連していた。『美術の発見』では、美術の内容領域は美術制作と美術鑑賞と生活美術という三つに分割され、『SWRL初等美術プログラム』では、最小単位の単元における諸活動は、視覚分析、制作、批評分析の三つから構成されていたし、『クリア:創造的初等美術学習教材』では、題材の授業の最初に提示される名作によって美術史や美術批評の学習が可能になり、それ以降の造形要素や構成原理に基づく美術制作に導かれた。
 さらに、これら四つの事例の具体的な学課においても、それぞれ独自の学習経験の展開を組織化しているが、いずれも美術学習への概念的アプローチが顕著であることが共通して認められる。そのことは、例えば、『美術—意味と方法と媒体—』の小学校1年生用の線描の学課の例でも明らかである。そこでは、線の概念が、方向性、時間性、多様性の観点から、指導され、向かう印としての線、物語を意味する線、違った種類としての線、という三つが学習されるのである。次の、『美術の発見』の小学校3年生用の線と形の学課においても、線による基本形、線と形による意味伝達、意味伝達のための効果的な線と形、という学習目標が設定されている。『SWRL初等美術プログラム』における山並みを主題とする活動においても、最初の視覚分析の学習においては画面空間における山並みの相互関係や物理的特性が指導され、制作学習への基盤が形成されるのである。『クリア:創造的初等美術学習教材』では、紹介される名作の「コンセプト」で認知目標を設定し、教えられる表現「スキル」で技能目標を設定していた。
 最後に、これら四つの事例に共通して認められる点は、視覚資料の豊富さである。美術内容が制作中心から脱却するには、美術に関して見る機会が多く求められるのは当然であるが、直接的な鑑賞の時間を持つには限界がある。それゆえ、間接的な複製や図版によって作品を見る機会を可能な限り増大することが必要となるものと考えられる。例えば、『クリア:創造的初等美術学習教材』ではスライドで約900枚、『美術—意味と方法と媒体—』や『美術の発見』では、生徒用教科書に掲載されている美術作品や視覚資料のモノクロとカラー図版は約1000枚から2000枚に及び、『SWRL初等美術プログラム』では約3000枚のスライドを、『クリア:創造的初等美術学習教材』では1000枚のスライドを、それぞれ指導書に付随させている。こうした多様で多量の図版によって、視覚体験の機会が増大すればするほど美術の世界は広がり、美術に関して語ることや考える機会も増大するのである。美術教育は、作品制作にのみに封じ込められることはなく、現在と関係を持ち、過去を想起し、文化に結びつけられ、人類の価値ある創造物の共有へと、広がることができる。制作にのみ限定した精神論からの解放は、美術教育における内容の拡大をもって、初めて可能になるものと思われる。
以上のような美術内容の広領域化、美術学習の概念的アプローチ、及び、視覚資料の質量の増大という三つが、1970年代中期から1980年代中期にかけての美術のカリキュラム開発の展開に認められる共通の傾向であると思われる。あるアメリカの美術教育史家によれば、「教科書自体は過去一世紀を通して美術教育者に不評を被ってきた」にもかかわらず、「1980年代の美術教育者は、教科書の使用や公立学校における美術授業のための体系的カリキュラムに対する新しい関心を表明している」(注12)のである。こうした共通の傾向は、1980年代の初期に始まるDBAE運動を経て、2008年に発売され始めた『美術の探究』(Explorations in Art)の教科書のように、今日まで引き継がれている。
 日本の初等中等教育における美術教育のカリキュラム研究において現在最も注目を集めている分野は鑑賞教育である。制作に関する授業研究は各種の美術教育雑誌の内容の大半を占めているが、鑑賞教育に関する研究は非常に少ない。その一因は、創造性の育成を強調して表現を重視する一方で、社会や文化における美術作品の価値を積極的に説明する学習に目を向けてこなかった経緯がある。その意味で、アメリカにおける鑑賞教育の日本への紹介は、鑑賞教育に不慣れな人にとっては、自らの教材研究の入り口になるかも知れない。
古今東西の美術作品を通して作品の意味を共有しようとするアメリア・アレナスの鑑賞教育の授業や、作品を注意深く見てグループで対話をすることにより思考・伝達・知識を深めようとするアビゲイル・ハウゼンの「視覚的思考方略」(Visual Thinking Strategies)に進む前に、美術作品に関する対話を制作の導入に用いて、その作品画像から授業の目標を引き出す『クリア:創造的初等美術学習教材』などは、対話が位置づけられた鑑賞教育の授業研究への前段階として意味あるものと考えられる。




(1)Guy Hubbard and Marry J. Rouse, Art: Meaning, Method, and Media, Revised edition, (San Diego, California: Benefic Press, 1981). なお、このカリキュラム開発の計画については、Marry J. Rouse and Guy Hubbard, "Structured Curriculum in Art for the Classroom Teacher: Giving Order to Disorder," Studies in Art Education, Vol.11, No.2 (Winter 1970), pp. 14-26. において述べられている。この教科書に関する日本における紹介と考察は、藤江 充「美術教育におけるカリキュラム研究(1)—アメリカの小学校用教科書の紹介と批判を通して—」『愛知教育大学教科教育センター研究報告』第11号(1987年)223-232頁、参照。
(2)Guy Hubbard, Art in Action (Coronado Publishers, 1987). この教科書に関する日本における紹介と考察は、藤江充「美術教育におけるカリキュラム研究(3)—"Art in Action" の紹介と批判—」『愛知教育大学教科教育センター研究報告』第13号(1989年)183-192頁、参照。
(3)Laura H. Chapman, Approaches to Art in Education (New York: Harcourt Brace, 1978).
(4)Laura H. Chapman, Teaching Art 1-3, 4-6 (Worcester, Mass.: Davis Publication, 1981).
(5)Laura H. Chapman, Discover Art (Worcester, Mass.: Davis Publication, 1985). この教科書に関する日本における紹介と考察は、藤江 充「美術教育におけるカリキュラム研究(2)—アメリカの小学校用教科書の紹介と批判を通して—」『愛知教育大学教科教育センター研究報告第12号』(1988年)177-186頁、及び、岡崎昭夫・小林利明・駒田郁夫「レッスン方式による図画工作科のカリキュラム—『美術の発見』の事例—」『宇都宮大学教育学部教育実践研究指導センター紀要』第11号(1988年)139-148頁、岡崎昭夫「指導計画及びの作成」『新指導要領による図画工作科教育法』(大学美術教育法研究会編、日本文教出版社、1990年)84-106頁、の三つがある。また、この教科書の授業レッスンの幾つかを公立の小学校で実践した結果を報告したものとしては、熊田好紀「レッスン方式による図画工作科の指導計画と実践」宇都宮大学教育学研究科修士論文(1994年1月)がある。
(6)Laura H. Chapman, Adventures in Art (Worcester, Mass.: Davis Publication, 1994)
(7)Laura H. Chapman, Explorations in Art (Worcester, Mass.: Davis Publication, 2008)
(8)W. Dwaine Greer, "Discipline-Based Art Education: Approaching Art as a Subject of Study," Studies in Art Education, Vol.25, No.4 (Summer 1984), pp.212-218.
(9)SWRL Elementary Art Program (Bloomington, Indiana: Phi Delta Kappa Center for Dissemination of Innovative Programs, 1977). このカリキュラムへの論評としては、Betty D. Copeland, "Art and Aesthetic Learning Packages," Art Education, Vol.36, No.3 (May 1983), pp.32-35. がある。この教科書に関する日本における紹介と考察は、岡崎昭夫・石川 毅「鑑賞教育を重視した美術のカリキュラム—SWRL初等美術プログラムの事例—」『宇都宮大学教育学部教育実践研究指導センター紀要』第10号(1987年)89-98頁がある。
(10) Kay Alexander, Clear: Creative Learning Elementary Art Resources, Set 1: Grades K-3 and Set 2: Grades 4-8 (Aspen, Colorado: Crystal Productions, 1987).
(11)Kay Alexander, SPECTRA: Learning to Look and Create (Palo Alto, CA: Dale Seymour Publications, 1988).この SPECTRAの教科書は、1993年には、幼稚園、第9学年(中学3年)、第10学年(高校1年)の3冊のバインダーが追加された。
(12)Mary A. Stankiewicz, "Drawing Book Wars,"Visual Arts Research, Vol.12, No.2 (Fall