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更新日 2018-08-29 | 作成日 2018-07-27

2016 美術による学び研究会 in 北海道 
WS「教室環境を考える」記録

1.目的
 美術専門の教師だけでなく、教育に携わる人間が、子供を取り巻く教育環境の意義について関心をもつとともに、美術教育の学びの本質にせまるための切り口

2.実施内容

 (1) 説明

「図工が好きな子」「得意な子」「センスのある子」 は、進んで活動に取り組める。しかし、いわゆる大人の絵のような「上手な絵」「見栄えのする絵」を求めた手立てのみの準備では、本当に子供の学びを支えることにはならないはずである。つまり、授業に前向きになれない子や苦手意識をもっている子にこそ注目し、まずは環境としての対策をとる必要がある。環境からの影響に配慮した上で、授業展開を考え、教材・題材とのふれあいをデザインしていくことが大切である。

① 教室のユニバーサルデザイン
 
 いわゆる発達障害といわれる子供は、教室内には少ないとは言えない。他の教科でも同様に、私たちは十分に配慮していく必要がある。「できない子」「周りに合わせられない子」としてレッテルをはり、子供を悪者にすることなく、どの子にも楽しく、自分を表現できる場にしていくことが大切である。
 そこで「ユニバーサルデザイン」の視点で教室環境を見直す。昔から教室正面を派手に飾ることで、楽しい雰囲気をつくり、子供たちによい刺激を与えることができると信じている教師は少なくない。しかし、上記の視点で考えると、むしろ視覚的な刺激が多くなり、子供にとっては集中できない要素を増やすだけなのだと言えるのだ。合わせて掲示物の在り方を見直すと、今まで信じて取り組んできたことも、改めて考えていかなければならないということに気づく。

②教師が意図しない子供への影響~「かくれたカリキュラム」

③「宝物の部屋」づくり

 図工室、美術室は、「様々な素材があり、すぐにつかえる場」でありたい。また、「様々な道具が整理されていて、目的に応じて使いやすくなっている」ことも大切である。日常的な子供たちの活動の中で、「図工室・美術室に行けば○○がある。」という発想を実現するためのヒントがあふれる場であるべきである。そして、図工・美術の授業で自己の存在感を実感している子にとっては、「図工室・美術室に行けば、何となく心が落ち着く」と思える場となるのである。だからすべての子にとって、「ここに行けば、とにかく楽しい!」と観じられる場となるよう環境作りを進めていかなければならないのである。

④掲示板で教室の価値づくり

 学習支援のための掲示物はとても重要である。ただし、年中同じものが掲示されていると、壁紙と同じように感じられるようになり、「見る」意識はもてなくなってしまう。授業の中で活用した掛け図や、教師が事前に試行した記録や素材のよさをまとめた掲示物なども、定期的に更新していくことで、子供たちは日常的に関心を高める事が出来る。
 また、複製画を展示することでも、授業としての鑑賞を行うだけでなく、日常的に鑑賞し、語り合う子供たちの姿を垣間見ることができるようになっていく。コメントカードを置いて、感じたことを記入して投函できるポストを設置したときには、数名で見ようとするコミュニケーションツールにもなっていた。そういう活動が継続されていくことによって、作者の「思い」にせまる経験を積み重ね、自然に作品を語る意識と見る力も高まっていった。

(2) ワークショップ「究極の図工室・美術室をつくろう」

感性を育む環境の構成のための3つの条件
   ・壁面・正面のデザイン
   ・教室内に置かれる「もの」
   ・わたしが創る「ポイント」を明確にもつ
活動:4名ずつのグループで活動する。
ホワイトボードに自由に書き込み、全員の考えを生かしながら形に表す。
できたものから、メリット・デメリットを考え、修正していく。
 
<話し合いの概要>
・子供の活動の深まりと広まりを保障する教室環境を中心に話された。
・子供の素材からの発想をうながすもの、発想したことを形にしていくために参考にしたり、表現の材料にできるものを見えるところに配置することに重点をおいた。
・授業づくりの上で、板書をしっかりとまとめられるようにした。
・題材によって変更される素材、材料を置く場所を工夫し、目的に合わせて動く環境作りのアイディアを出せた。
・排水・手洗い場、作品棚等、製作後の支援がしやすい環境作りを考えた。
・アクティブラーニングを意識し、作品づくりや作品をもとに話し合う活動を支える教室環境づくりを考えた。
・ICTを活用し、映像による支援のしやすさを考えた環境作りを考えた。

3.成果と課題

 理想を言えば多額の予算が必要になるが、少予算でも可能な範囲でアイディアを集結させる事ができた。手作りのものも含めて、環境作りの話し合いの中心には、生き生きとした子供像が終始話題となり、子供中心の授業づくりを支える意識の高まりが見られた。
  教室をデザインする立場の方々(行政や意見を述べる立場の教師等)に、実際に活用することを考慮してもらえていない現状を危惧する意見が出された。附属学校のような予算を保障されている学校だけでなく、一般の公立学校でも意見を述べる体制や組織作りの必要性についても話された。